認知行動療法には、考え方や行動に働きかける方法だけでなく、呼吸法やリラクゼーションなどの身体を使った方法もあります。

前回の記事でも、touch treeではこの「身体から働きかける部分」をセルフケアとして大切にしていきたいと書きました。

そこで今回は、リラクゼーション法のひとつである「漸進的筋弛緩法」をご紹介します。

少し難しそうな名前ですが、行うことはとてもシンプルです。

筋肉にぎゅっと力を入れてから、一気に力を抜く。これだけです。

「力を抜いて」と言われても、力は抜けない

不安や緊張が強いとき、こんなふうに言われることがあります。

「肩の力を抜きましょう」
「身体をリラックスさせましょう」

けれども、いざ力を抜こうとしても

「そもそも、どこに力が入っているのかわからない」
「抜いているつもりなのに、まだ身体がこわばっている」

ということはないでしょうか。

力が入った状態が長く続いていると、それが自分にとっての普通になり、緊張していること自体に気づきにくくなることがあります。

漸進的筋弛緩法は、最初から上手に力を抜こうとする方法ではありません。

反対に、意識して筋肉を緊張させたあと、一気に脱力することで

「今まで力が入っていたんだ」
「力が抜けるとは、こういう感じなのか」

という、緊張と弛緩の違いを身体で感じていきます。

漸進的筋弛緩法では、このように身体の各部位で緊張と弛緩を繰り返しながら、身体全体のリラクゼーションにつなげていきます。

漸進的筋弛緩法を始める前に

本来の漸進的筋弛緩法では、手や腕、顔、肩、背中、お腹、足など

身体のさまざまな部位を順番に緊張させていきます。

ただし、全部を行おうとすると少し時間がかかります。

セルフケアはたくさん行えばよいというものではありません。

今日は取り入れやすいように、腕と足の2か所だけをご紹介します。

椅子に座って、できるだけ楽な姿勢で行ってみましょう。

力を入れるときも全力で頑張る必要はありません。めやすは自分の最大の力の60~70%ほどです。

痛みを我慢したり、歯を食いしばったりするほど力を入れないようにしてください。

腕の漸進的筋弛緩法

まずは、手から腕にかけて行います。

腕の漸進的筋弛緩法

①腕に力を入れる

両肘を軽く曲げ、両手で握りこぶしを作ります。

手だけではなく、指先から前腕、上腕まで、腕全体に力が入っていることを意識してみましょう。

その状態を5秒ほど続けます。

「いち、に、さん、し、ご」と、ゆっくり数えてみてください。

②一気に力を抜く

5秒たったら、握っていた手を開き、腕の力を一気に抜きます。

腕をだらんと下ろし、そのまま20秒ほど休みます。

肩のつけ根から指先まで、じわっと力が抜けていく感覚を観察してみましょう。

手が少し温かく感じられたり、腕が重く感じられたり、力を入れていたときの余韻が残ったりするかもしれません。

特別な感覚がなくても、失敗ではありません。

「力を入れていたとき」と「力を抜いたあと」に、ほんの少しでも違いがあるかを感じてみてください。

足の漸進的筋弛緩法

次は足です。

転倒しないように、安定した椅子に座って行いましょう。

①足に力を入れる

椅子に少し浅めに座り、両足を前に伸ばします。

かかとは床につけたまま、つま先を自分の身体の前方へ引き寄せます。

アキレス腱やふくらはぎの後ろ側を伸ばすような姿勢です。

太ももから足先まで、足全体に力が入っていることを感じながら、その状態を5秒ほど続けます。

ただし、足がつりやすい方は無理をしないようにしてください。

②一気に力を抜く

5秒たったら、足の力を一気に抜きます。

足を楽な位置に戻し、そのまま20秒ほど休みましょう。

つま先、ふくらはぎ、太ももの順に、足全体の力が抜けていく様子を感じてみます。

足が床に預けられている感じや、椅子に身体の重さを任せている感じがあれば、その感覚を少し味わってみてください。

「リラックスできたか」を採点しなくていい

漸進的筋弛緩法を行っても、

「思ったより力が抜けなかった」
「これで合っているのかわからない」
「全然リラックスできない」

と感じる日もあるかもしれません。

けれども、このセルフケアの目的は必ず深くリラックスすることではありません。

まずは、自分の身体のどこに力が入りやすいのか、力を抜いたときにどのような変化があるのかを知ることです。

「今日は腕が少し軽くなった。」
「足は思ったより力が入っていた。」
「右と左で感覚が違った。」

そのくらいの小さな発見で十分です。

「こうでなければならない」という正解を探すよりも

自分にとって気持ちのよいやり方や、落ち着きやすい力加減を見つけていきましょう。

心に働きかける前に、身体からできること

不安な考えが頭から離れないとき、考え方を変えようとすればするほど、かえってその考えに意識が向いてしまうことがあります。

そんなときには、考えをどうにかしようとする前に

握って、抜く。
足に力を入れて、抜く。

という単純な身体の動きを行ってみるのもひとつの方法です。

心の問題に見えることを、身体から見つめ直してみる。

漸進的筋弛緩法は、そのために使えるセルフケアのひとつではないかなと思います。

一度にいろいろな部位を行わなくても構いません。

腕だけでも、足だけでも、まずは自分が取り入れやすいところから試してみてくださいね。

そうして小さなセルフケアを積み重ねながら、少しずつ「大丈夫かもしれない」と思える身体を一緒に育てていけたら嬉しいです。

RUISA

注意すること

過去にけがをした部位や、痛みのある部位に強く力を入れると、かえって痛みや不快感が強くなることがあります。

そのような場合は、力を入れる程度を弱くするか、筋肉を緊張させず、楽な姿勢で力を抜く時間だけをとってみてください。

また、重い肩こりや腰痛がある方、足がつりやすい方も注意が必要です。途中で痛み、しびれ、息苦しさ、めまいなどを感じた場合は、すぐに中止してください。

持病や身体の不調がある方は、無理にセルフケアを行わず、必要に応じて医師などの専門家に相談してください。


参考資料

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者職業総合センター
「リラクゼーション紹介講座〈2〉漸進的筋弛緩法」